ルネス総合法律事務所

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法律コラムcolumn

2022.02.24

知的財産法

令和3年特許法改正について

特許法等の一部を改正する法律(令和3年5月21日法律第42号)の内容は多岐にわたりますが、このコラムでは特許法の改正項目のうち重要な事項を取り上げて解説します。

令和3年特許法改正の重要な項目としては、以下のものがあります。
①審判の口頭審理のオンライン化
②訂正等における通常実施権者の承諾を不要に
③特許権侵害訴訟における第三者意見募集制度の導入
④権利回復の要件の見直し

施行日は、①が令和3年10月1日、②から④が令和4年4月1日となっています。以下では、上記②および③について取り上げます。 なお令和3年特許法改正の全体像については、特許制度小委員会報告書「ウィズコロナ/ポストコロナ時代における特許制度の在り方」(令和3年2月)が大変参考になります(以下「特許制度小委員会報告書」といいます)。また審判の口頭審理のオンライン化については運用による面が大きいので、特許庁ウェブサイトの「口頭審理実務ガイド」の頁に掲載されている「オンライン口頭審理に関するQ&A」などを参照ください。

【訂正等における通常実施権者の承諾を不要にする改正】

特許権の放棄(特許法97条)、訂正審判請求(127条)、訂正請求(120条の5第9項・134条の2第9項で引用される127条)について、現行法では通常実施権者の承諾が必要とされていますが、これを不要とすることになりました。
この改正は端的に言うと、特許をライセンシーの承諾なく放棄したり訂正したとして、そもそもライセンシーに不利益があるのか、という問題に帰着します。もともとは何らかの不利益があると考えられていたわけですが、よく考えれば、放棄は特許権が消滅し、訂正は多くの場合権利範囲が減縮するのですから、ライセンシーが今まで支払っていた許諾料の支払が不要になることはあっても、新たに支払が必要になる場合は考えがたく、特に不利益はないのではないか、ということです。
改正の必要性としては、ライセンシーが多数にのぼるような場合もあり、すべての通常実施権者の承諾を得ることが現実的に困難な場合があるということがあげられています。
注意すべき点として、現行法では侵害訴訟における訂正の再抗弁を主張するためにも、通常実施権者の承諾が必要ということです(例として東京地裁平成28年7月13日判決【眼鏡用レンズ事件】)。
特許制度小委員会では、独占的通常実施権は別異に解する余地がある(判例上、独占的通常実施権者は侵害者に対する損害賠償請求権を有するとされています)という議論もありましたが、今回の改正では区別はしないことになりました。ただし衆議院・参議院の附帯決議があり、「いわゆる独占的通常実施権者に不測の損害が生じること等がないよう、権利関係の実情を踏まえ制度の周知徹底等適切な措置を講じること」とされています。
なお、改正により承諾が不要となる通常実施権者には、法定通常実施権者(職務発明における使用者など)も含まれます。また、専用実施権者、質権者の承諾は改正後も引き続き必要です。

【特許権侵害訴訟における第三者意見募集制度の導入】

アメリカ法では、個別事件の法律問題について、利害関係の有無を問わず第三者が裁判所に情報または意見を提出することのできる制度があります。これに倣って、特許権侵害訴訟における第三者意見募集制度が導入されました(特許法105条の2の11の新設)。今回の改正法の内容は日本版アミカス・ブリーフとも呼ばれますが、アメリカ法では制度としてはアミカス・キュリエ、提出する書類をアミカス・ブリーフと言います。
日本における経緯としては、過去に知財高裁が運用として第三者意見募集を試みたことがあり(知財高裁平成26年5月16日大合議判決【アップル対サムソン事件】)、今回の改正はその試みを法制化したものと言えます。
適用事件は特許権および実用新案権(または専用実施権)の侵害訴訟のみです。
意見を募集する対象は条文上、「当該事件に関するこの法律の適用その他の必要な事項について」とされており、必ずしも法律的な論点に限られません。むしろアップル対サムソン事件の経験上、純粋な法律上の論点よりも、法解釈に資するために産業界の実情を裁判所が知りたいと思うようなときにこそ発動されると思われます。
第三者意見募集は当事者の申立を要件とします。意見募集の必要性、意見を求める事項は、当事者の意見を聞いて裁判所が判断するという仕組みになっています。
また、条文上は必ずしも明らかでありませんが、特許制度小委員会報告書によれば、意見書は裁判所に提出され、各当事者が必要なものを書証として証拠提出するという運用が想定されています。

(弁護士 木村 耕太郎)