ルネス総合法律事務所

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法律コラムcolumn

2024.03.29

家族法・相続法

相続登記の申請の義務化について

1 改正の背景
 不動産登記法の改正により、令和6年4月1日から、不動産を取得した相続人には、相続登記の申請が義務付けられます。
 これまで相続登記の申請は義務ではなかったことから、相続登記の未了を原因とする「所有者不明土地」が全国で増加していましたが、「所有者不明土地」は、所有者の探索に多大な時間と費用が必要となること、管理されず放置されることが多いことなどから、管理不全による周辺環境の悪化や公共事業・災害復旧作業の阻害などの深刻な問題が発生していました。

2 相続登記申請義務について
(1)義務の内容
 相続又は遺贈により不動産を取得した相続人は、取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが義務付けられます(改正不動産登記法(以下「改正法」といいます。)第76条の2第1項)(基本的義務)。そして、遺産分割がされた場合、遺産分割により法定相続分を超えて所有権を取得した相続人は、遺産分割成立時から3年以内に遺産分割の内容を踏まえた登記申請をしなければなりません(改正法第76条の2第2項、第76条の3第4項)(遺産分割成立時の追加的義務)。
(2)相続人申告登記制度
 遺産分割未了の場合、個々の持分が未確定であるため、法定相続分での相続登記の申請を行うことになりますが、法定相続分での相続登記の申請の際には、被相続人の出生から死亡までの全ての戸除籍謄本が必要であるなど、手間や費用がかかってしまいます。
 そこで、改正法では、相続人申告登記という制度が設けられ、相続人が申請義務を簡易に履行することができるようになりました。すなわち、相続登記の申請義務を負う者が、登記官に対し、不動産の登記名義人について相続が開始した旨及び自らがその相続人である旨を、申請義務の履行期間内(3年以内)に申し出ることで、申請義務を履行したものとみなされます(改正法第76条の3第1項・第2項)。また、添付書類としては、申出をする相続人自身が被相続人の相続人であることが分かる当該相続人の戸籍謄本で足ります。
 ただし、相続人申告登記は、申請義務の履行期間内(3年以内)に相続の開始及び不動産の登記名義人の法定相続人を報告的に公示するものにすぎず、相続等による所有権の移転を公示するものではありません。したがって、遺産分割がされた後にその内容を踏まえた登記申請をする義務を相続人申告登記によって履行することはできないことに留意が必要です。

3 ケース別の対応
(1)不動産の取得を知った日から3年以内に遺産分割が成立したケース
 取得を知った日から3年以内に遺産分割の内容を踏まえた相続登記の申請が可能であれば、これを行えば足ります。
 それが難しい場合等においては、取得を知った日から3年以内に法定相続分での相続登記の申請又は相続人申告登記の申出を行った上で、遺産分割成立日から3年以内に、遺産分割の内容を踏まえた相続登記の申請を行うことになります。
(2)不動産の取得を知った日から3年以内に遺産分割が成立しなかったケース
 まずは、取得を知った日から3年以内に法定相続分での相続登記の申請又は相続人申告登記の申出を行い、その後に遺産分割が成立した場合、遺産分割成立日から3年以内に、遺産分割の内容を踏まえた相続登記の申請を行うことになります。

4 経過措置
 改正法の施行日である令和6年4月1日以前に相続が発生していたケースについても、相続登記の申請義務が課されます。
 ただし、このケースの3年の期間は令和6年4月1日からスタートし、申請義務者は令和9年3月31日までに義務を履行すれば足ります。

5 罰則規定
 改正法では、申請義務者が正当な理由なく義務を怠ったときは、10万円以下の過料に処することとされました(改正法第164条第1項)。
 法務省は、「正当な理由」として、相続人が極めて多く戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合や、相続人等の間で遺言の有効性や遺産の範囲等が争われている場合などを例示していますが、これらに限定されるものではなく、個別具体的な事情に応じて判断されます。

6 実効性確保のための制度
 相続登記の申請の実効性を確保するため、上記5の罰則規定の他、改正法では以下の制度が新設されました。
(1)相続人申告登記制度の新設
 上記2(2)のとおり、改正法では、相続人申告登記の制度が新設され、これにより、相続人が相続登記の申請義務を簡易に履行することができるようになりました。
(2)所有不動産記録証明制度の新設
 これまでは、特定の者が所有権の登記名義人になっている不動産を全国から網羅的に抽出し、その結果を公開する仕組みは存在しませんでした。そのため、被相続人が死亡した場合に、相続人が被相続人の所有不動産を把握しきれず、見逃された不動産について相続登記がされないまま放置されるという事態が生じていました。
 そこで新設されたのが所有不動産記録証明制度です(改正法第119条の2(令和8年2月2日施行))。
 これは、特定の被相続人が所有権の登記名義人として記録されている不動産(そのような不動産がない場合にはその旨)をリスト化し、証明する制度です。この制度により、相続人は被相続人の所有不動産を容易に把握することができるようになります。

7 実務への影響
 相続登記の申請が義務化されたことは、相続実務に大きな影響を与えるものと考えられます。義務違反の際の罰則規定が設けられたことにより、相続又は遺贈により不動産を取得したことを知った相続人は、速やかに遺言書の有無・種類・内容や法定相続人の範囲等について調査する必要が生じます。ケースに応じた遺産分割協議や相続登記申請の方法等について、弁護士や司法書士等の専門家に相談する場面が増えることが想定されます。

(弁護士 矢田 晴香)